自分からの脱走

 Avril LavigneのWhen You're Goneが流れている。
誰が入れたのだろうか、PCのライブラリーに入っていた。
この歌詞どおりなら、僕は失った誰かを求めているはずだ。
けれども現実には、誰も失っていない。
失うものなどなかった、はじめから何も持っていない。


ピアノの旋律が響いている。
そのメロディーに癒されたいと思っている。
癒されたい、満たされたい、でもこのメロディーに癒されることはない。
僕はどこにいるのだろうか。
見なれた部屋の景色の中で、カーテンから漏れる光がゆがんで見える。
今は朝だろうか、昼だろうか。
誰が望んだ日なのだろうか。
見なれた部屋のはずなのに、僕の心はここにはなかった。


曲が終わり、静かになった部屋にただ一人、そこにいる。
親指の爪を噛み、ひざを抱えて座っている。
こんな癖あっただろうか。
いつからだろう、なんで僕は僕なんだろう。
そんなことばかり考えていた。
望んでもいないのに、僕はここにいた。


僕はいつになったら出て行くのだろうか。
どこから?
僕自身から。
どこへ?
どこだろうか。
気が付いたら親指の爪が欠けていた。
こんな癖なかったのに。
徐々に、自分が自分である感覚が薄れていく。
今までなかったものが自分の中であふれてくる。


これは幻想。